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Före stormen 嵐の前

スウェーデン映画 (2000)

12歳のレオの、衝撃的な “恥かしい虐め” のシーンと、それに続く、衝撃的な発砲シーンがきわめて印象的なスウェーデン映画。映画のメインは、中東から18年前に逃げて来た元大尉のアリが、脅迫の末、実行を迫られる暗殺に置かれているが、レオとアリのシーンが、絶妙に絡み合い、進行していく脚本はとてもスリリングで、見事な出来栄えになっている。

ある日、学校の自転車置き場で、上級生ダンネの自転車を磨かされているレオを見たタクシー運転手のアリは、「力で負けても、奴に勝てるトコを探せ」と、隷属をやめるようアドバイスする。しかし、その日の体育の授業の後、事態はますます悪化する。レオは、ダンネの恐喝により、全裸で女子の更衣室に入らされたのだ。あまりの恥に涙で復讐を誓ったレオは、帰宅すると婦警の母の拳銃をこっそり盗み、その日の終業後、ダンネの自転車の空気を抜く。それを見たアリは、レオが自分の次女のサラが好きそうなのを見て、誰かを好きになった時どうすべきかをアドバイスする。アリが去ると、レオは森の中でダンネを待ち受け、拳銃で狙いをつけ、ダンネを恐怖で愚弄する。しかし、怒ったダンネに襲われそうになり、思わず引き金を引くと、銃弾がダンネの胸に当る。翌日、学校では、ダンネが危機的な状態にあると告げられ、生徒全員が簡単な聴取を受ける。レオは全く疑われなかったが、その後、すぐに母のパトカーに連れて行かれる。母の拳銃に1発不発弾(母が拳銃と一緒にしまっておいたもの)が混ざっていたことから、母は、レオがダンネを撃ち、不発弾を補充したと判断し、殺人犯だとして、息子の行為を強く批判する。レオは、隙を見てパトカーから逃げ出し、姿をくらます。そして、夜になり、アリの家を訪れ、事情を話して1晩泊めてもらう。そして、アリの助言もあり、翌日、自白しに帰宅することにする。一方、アリは、18年前に、テロ組織側の大尉として活動中に悲惨な事故を起こし、国を脱出してスウェーデンで結婚し、2人の娘と4人で仲良く暮らしていた。そこに、祖国から魔の手が伸び、現地に残して死んだと思っていた妻が人質にされ、代わりに、死の商人を暗殺しろと脅迫される。アリは、仕方なく拳銃を持ち、医者に扮して “死の商人の父ら入院している病院” に行くが、商人が用心棒を連れて来ていたため、予定が狂う。こうした独立した2つのストーリーだが、レオとアリの直接的な関係、レオとアリの次女サラとの関係が複雑に絡み合い、両者が並行する形でサスペンスフルな物語が展開する。

アリと並んで主役を務めるのは、エーミル・オーデパルク(Emil Odepark)。1986年11月10日生まれ。1999年の夏の撮影だと、映画の設定と同じ12歳。2本目の映画出演だが、1本目は端役なので、これが唯一の出演作と言ってもよい。賞にはノミネートされなかったが、演技は見事。

あらすじ

映画は、アリが自宅に置いてあるタクシーに姉妹を乗せて学校に送る場面から始まる。アリは典型的な中東人だが、妻は金髪のスウェーデン女性。妹のサラは母に似て西洋的、姉のジェニファーは父に似て中東的。2人が降りると、アリはタクシー会社に無線で、「お早う。こちら、12-24。出社します。コーヒーを飲んでから。交信終り」と連絡する。エンジンをかけてバックしようと振り向いた時、サラがカバンを忘れていったことに気付く(1枚目の写真、矢印)。そこで、届けようと正門から中に入ると、左側にある自転車置き場で 見たことのある少年〔レオ〕が自転車を磨いている。そこで、彼に渡すのを頼もうと思い、「君、サラのクラスの子だろ? 渡してくれないか?」と言いながら、カバンを渡す。そして、それだけでは悪いので、「いい、自転車だな」と褒める。ところが、「僕のじゃない」という意外な返事。「誰のだい?」。「ダンネ」(2枚目の写真)。「ダンネって、9年生の?」。レオは頷く。「変だな。自分の帽子で、他人の自転車を磨く? なぜだ? どのくらい続けてる? なぜ、奴の自転車なんか磨く? 自分で、やらせりゃいいだろ。いいか? 君は、バカな子じゃない。力で負けても、奴に勝てるトコを探せ」。そう言って、約束しようと手を差し出す。レオは、しばらく迷った末、手を出して、アリの手を叩く(3枚目の写真、矢印)。今度は、レオが手を出し、アリがその手を叩く。そして、「レオだろ?」と訊き、レオは笑顔で頷く。
  
  
  

アリがタクシーに戻り、車を出そうとすると、窓から中東の老女が顔を覗かせ、「これ、空車ですか?」と訊く(1枚目の写真)。「悪いが、始業前なんでね」。「お願い、近くだから」。こうして、老女はタクシーに乗る。車内のラジオでは、ニュースが流れている。「サンダー氏の発表では、大量のトラックの輸出注文が昨日合意されました。400人の労働者にとって朗報となりました。1ヶ月前に解雇を通知されていたからです。1人に感想を聴いてみました。『実に、素晴らしいことだね。昨日まで憂鬱だったのが嘘みたいだ。ありがとう。これで仕事が続けられる。やった!』」〔あとで、これがレオの父の発言だったと分かる〕。老女が、「こっちに来て、長いの?」とアラビア語で訊く。「あんたは、国から直行? 俺のアラビア語は錆ついてる」。雑談の後、老女は、「同郷者を探してるの。助けてもらえる?」と言い出す。その同郷者とは、「指名手配中で最も恐れられたゲリラ兵の1人なの。でも、不慮の事故の後、仲間を見捨てた」。まだピンと来ないアリは、「昔の話かね?」と訊く。「18年前よ。もう一度、接触したいの」。「もう、どこかで死んでるさ」。「ええ、私も、ずっとそう思ってきた。誰も、タクシーの運転手をしてるなんて、考えなかった」。その言葉で、自分のことだと分かったアリは、タクシーを急停車し、“出て行け” とばかりにドアを開ける。「大尉、助けが必要なの」。「降りろ!」。「お願いだから、聞いて!」。アリは、有無を言わせず引きずり出す(2枚目の写真)。「大尉、あなたの 奥さんと子供の命が、かかってるのよ」。アリは、その言葉を無視して立ち去る。
  
  

レオは、廊下から教室の中を覗く(1枚目の写真)〔赤い服の子がサラ〕。レオは、辺りの様子を窺うと(2枚目の写真)、サラのカバンを開け、中から “葉とテントウムシ” のブローチを取り出す(3枚目の写真、矢印)〔レオはサラに片思いしているので、サラの持ち物が欲しかった〕
  
  
  

レオが教室の中に入って行くと、1人の生徒が 「おい、“野暮”。また、遅刻か」と からかい、みんなが笑う(1枚目の写真)。レオは、教師に、「遅れて、ごめんなさい」と言い、サラの前まで行くと、「君の パパからだ」とカバンを渡す(2枚目の写真、矢印)。「ありがと」。レオが、そのままサラをじっと見つめていたので、「やーやー、愛しの君か」と 再度からかわれ、サラが 「黙りなさいよ」と注意しても、「やったな、“野暮”。お前にも、肝っ玉 あったのか?」と、追い打ちをかけられる。レオの席の隣の女生徒〔テレース〕は、それを聞いて嫌な顔をし(3枚目の写真)、レオに方を向くと、「やあ、“お猿さん”」と声をかける、レオは頷くが目はサラを向いている。
  
  
  

体育の授業が終わった後、教室では侮辱的な言葉を浴びせられレオだが、男子の更衣室では、「それで、サラと やったのか?」「ここに、サラがいればな…」「ああ、サラちゃん」と、5人の生徒から冗談交じりに羨ましがられ、床に押さえつけられても顔いっぱいに笑顔(1枚目の写真)。「全部、バラしちまえよ」「アラブのアソコって、横向いてるのか?」。レオ:「分かった、放してくれたら、話すよ」。「静かに!」「全部、話せよ」の声を前に、レオがニッコリする(2枚目の写真)。レオ:「一度、家に 行ったんだ」。「で、やったのか?」(2枚目の写真)。レオは話せることなど何もしてないので、「余計な お世話だ」と言うと、背後のドアから、体育室に素早く入り、ドアを閉める。
  
  
  

そして、ドア越しに、「君らも、女の子と友達になれよ」と向かって言い(1枚目の写真)、ドアの向こう側からは、はやし立てる声が響く。レオは、ふと人の気配を感じ、横を向くと、そこにいたのは、虐めっ子のダンネとその仲間。レオは、何をされるかと慄きながら、「やあ、ダンネ」と言う(2枚目の写真)。「自転車、まだ 汚れてたぞ」。「ランチの時間に するよ」。「レオ、つき合って何年になる?」。「3年」。「タオル、取ってこい。そこに忘れてきた。青と白の奴だ」。レオが更衣室に戻ろうとすると、ダンネは 「そっちじゃない」と言い、もう一方のドアを向いて、「あっちだ」と言う。仲間が 「女生徒で一杯だ。ここまで匂ってくるぜ」と 意地悪く言う。レオは、「誰か他の子に行かせてよ」と頼む(3枚目の写真)。「たった10秒で済むんだ。おっぱい見てから出て来いよ。嫌ならブチのめすぞ」。
  
  
  

レオは、仕方なく女子更衣室のドアの前まで行くと、ダンネが 「脱げ」と命じる。レオは 「お願い、ダンネ、何でもする。言いつけ通り、何でもするから」と、懇願する。「10秒だ。チラッと見てこい」。そう言うと、ナイフを取り出す。レオは仕方なくパンツを脱ぐ(1枚目の写真、矢印)。そして、ドアをそっと開けると、誰もこちらを見ていないのを確かめ(2枚目の写真、頬に涙)、そのままドアの横の壁に背を向けて張り付く(3枚目の写真)。
  
  
  

ドアの隙間から、ダンネが 「10秒だ」と言う。レオは、涙を流し、指を折りながら数を数える(1枚目の写真)。しかし、終わりかけたところで、ドアの前を通りかかった女生徒がレオに気付き、悲鳴を上げる。それと同時にドアも閉められる。レオは、ドアを必死で叩き、「ドアを開けてよ!」と叫ぶが、女生徒達の悲鳴の方が凄まじい(2枚目の写真)。「この、どエッチ!」「こっちを、見ないでよ!」。レオが顔だけ振り向いて、「出れないんだ!」と言うが、「とっとと、出て行って!」と反撥されただけ(3枚目の写真)。いろんな物が、レオに向かって投げ付けられる。
  
  
  

その時、ドアが開き、ダンネが入って来て、「面倒を起こすために、一人にしたんじゃないぞ」と イチャモンをつける。「出して くれなかった」(1枚目の写真)。「サラに いちゃつけって、誰が言った?」。「してないよ」。「黙れ!」。サラは、「2人とも、出てって!」と言うが、ダンネは、「こいつは非を認めん。おれが裁いてやる」と言うと、サラは、「いい加減にして」と批判する。それを聞いたダンネを、「嬉しいこと言うじゃないか」と言いながらサラの前まで行き、「今のは何だ、“バンビ”。俺とお前の仲だろ。それとも違ってたか? “野暮” が何かしたのか?」と言う。「ぜんぜん。“バンビ” って誰のこと?」。「俺のカワイ子ちゃんだろ。触っても…」(2枚目の写真)。そう言うと、ダンネはサラが持っていたパンティを取り上げる。「返してよ」。「カワイイな」。そう言うと、ダンネはサラのパンティをレオの足元に投げる(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

そして、「お前、ヌーディストか?」と 蔑むように言う。「はかないのか? “バンビ” のタオルが欲しいか?」。サラ:「イヤよ」。ダンネ:「サラを、困らせたいのか? パンティかタオルか?」。サラのバスタオルを取る訳にはいかないので、レオは、恥を忍んでサラのパンティを片手で何とか履こうとする(1枚目の写真)。履き終わったレオに、ダンネは 「お前も、カワイイぞ。バンビは、どう思う?」と、侮辱するが、それを聞いたレオは、恐怖より怒りが勝ってダンネに飛びかかる(2枚目の写真)。最初は、意表を突いて優勢だったが、2歳の年齢差と、元々穏やかな性格だったため、すぐに逆転され、下腹部を膝で蹴られて痛さのあまり倒れ込む(3枚目の写真)。そのあと、レオがこの部屋からどうやって脱出したのかは分からない。
  
  
  

レオが、服を着て、更衣室の出口の手前のベンチに座り込んでサラのブローチをじっと眺めていると、ドアが開き、サラが顔を見せ、「大丈夫?」と訊く。「いいよ。タオルをとったら、ブッ殺してやった」(1枚目の写真)。「そんなことしたら、何されてたか。とにかく、ありがとう」。「もうちょっと だった」。サラは、「ダンネは、怖いものなしよ」と言って(2枚目の写真)、更衣室から出て行く。その言葉を聞いたレオは、悔しさに、自分のバッグを何度も壁にブチ当て(3枚目の写真)、何も出来ないことへの怒りを発散させる。
  
  
  

レオはアパートに帰ると、婦警の制服のままの母が、「レオ、帰ったの?」と訊く。逆に、レオは、「まだ、家にいたの?」と訊き返す。「フィリップに熱が。だから、少し遅刻して行くの」(1枚目の写真)。「いつ、戻ってくるの?」。「今朝、言ったでしょ。正午から5時までが、休み。忘れたの? 学校は どうしたの?」。「昼休みだから、自転車を取りに」。母は、「学校の後、買い物してきて」と言い、リストとお金を渡す。レオは、「物置の鍵、貸してよ」と頼む(2枚目の写真)。「自分の鍵は?」。「見つからないんだ。鍵、渡してよ」。レオは、鍵の束を受け取る。レオは、こっそりと母の部屋に入って行くと、戸棚を開け、下の金庫を、鍵束の中の鍵で開ける。そして、中に置いてあった拳銃を取り出し(3枚目の写真)、それを横に置くと、次に、隣に置いてあった箱の中身を見る(4枚目の写真、矢印は撃針痕〔発射時に撃針が叩いた痕〕)。箱を金庫に戻し、拳銃を服に入れると、金庫を閉め、戸棚も閉める。
  
  
  
  

すると、突然、「何してるの?」という声がし、びっくりしてレオが振り返ると、母のベッドに弟が寝ている(1枚目の写真)。「お前こそ、ここで何してる? お前のベッドじゃないぞ」。「のどが痛いの。何、とったの?」。「何も」。その時、「坊や、大丈夫? 何か、食べたい?」という母の声が聞こえる。レオはとっさに弟の口を押える。そして、声を立てないよう口に指を当てて意思表示する(2枚目の写真)。そして、「バットマンのマスク、欲しかったろ?」と訊く。レオが手を外すと、弟は 「スパイダーマンの衣装も欲しい」と言い、レオは頷く。弟は、「いらないよ。もう、寝るから」と母の問い掛けに答える。次のシーンでは、レオが鍵束を母に返し、出て行こうとして、呼び止められ、自転車に乗るのだからとヘルメットを被せられる。そして、「ダンネとの関係は?」と訊かれる。「いいよ」。「じゃあ、学校に注意しなくていいのね?」。「ほとんど会わないんだ」(3枚目の写真)。「あの子は要注意人物で、いつかは逮捕しないと」。
  
  
  

アリが、娘たちを迎えに学校まで自分のタクシーで行き、しばらく門の外で待っている。その時、門の脇の駐輪場では、レオがダンネの自転車のタイヤの空気を抜いている(1枚目の写真)。そして、終業のベルが鳴ると、その自転車を持ち上げて生徒達が出て来る扉の前に置く(2枚目の写真)。置き終わって顔を上げると、アリと目が合ったので、レオは笑顔になる。そして、これまで掃除に使っていた帽子を横に投げ捨てると、自分の自転車を引っ張ってアリのところまで行く。「宣戦布告か?」。レオは、笑顔で頷く。「サラを、見なかった?」。「まだ、中だよ」。その時、ダンネが扉から出て来て、自分の自転車が正面に置いてあるのを見て驚き、タイヤに空気がないことを知り、帽子を拾い上げて門を見ると、そこに、レオがアリと一緒に立って見ている(3枚目の写真)。レオとアリは、約束を果たしたことで、手を叩き合う。
  
  
  

そこに、サラが飛び出して来て、アリに抱きしめられる。アリは、ジェニファーが運んできた木の本箱を見て、「これじゃ、トラックが要るな」と冗談を言う。サラは、「不格好だって言ったら、怒っちゃって」。アリは、ジェニファーに、「いい本箱じゃないか」と、取りなすように言う。アリは、本箱を屋根の上に乗せるために、タクシーの行灯を外さなくてはならないので、本箱を一旦レオに持っていてもらう。レオが本箱を持ちながら、サラの顔を嬉しそうに見ていると(1枚目の写真)、ダンネが、「“バンビ”、パンティは返してもらったか?」と訊いた後で、レオに向かっては、“首をちょん切る” という真似を指でしてみせる。サラが、レオに 「じゃあ、明日」と言って車に乗ろうとする。レオは、「ねえ… 君は…」と、呼び止める。すると、教室で隣の席のテレースが、「お猿さん! 家に帰る?」と声を掛ける。レオはそれを完全に無視し、サラに、「君は、この週末 忙しい?」と訊く。「姉の堅信式なの。どうして?」。ここで、再度、テレースが 「ねえ、君!」と邪魔をする。「何だい?」。「で、どうするの?」(2枚目の写真)。「放っといてくれ」〔テレースはレオが好き、レオはサラが好き、サラはダンネが好き〕。そして、サラにはお金を見せながら、「映画に行くとか、キャンディーだって、買えるし」と誘う。「他の時ならね」。その様子を見ていたアリは、サラが車に乗ってしまうと、レオから本箱を受け取りながら、「女の子との問題?」と訊く。レオが、首を横に降り、立ち去ろうとすると、「おい、手伝えよ」とロープを渡す。そして、「もし、君が誰かを好きなら、本気になれ。中途半端じゃダメだ」と教える(3枚目の写真)。「分かった?」。「さっぱり」。「じゃあ忘れろ… 女の子とは、何も問題もないんだ」。「多分ね。でも、話してよ」。「いいか… 君が誰かを好きになる…  本気でだぞ… なら、行動に出るんだ、話すだけじゃなくて」(4枚目の写真)。タクシーが去って行くと、レオは振り返ってダンネの去った方を見る。
  
  
  
  

ダンネが、空気の抜けた自転車を引っ張りながら下を向いて歩いていると、道の先でレオの声がする。「タイヤがぺちゃんこ?」。ダンネは、親指と人差し指で3センチくらいの隙間を作り、「お前の命は、この位だ」と脅し、それを見たレオは、「可愛いな」とバカにする。「何だ、その口のきき方は。覚悟しろ」。「『可愛い』って、言っただけだ。空気入れ、貸そうか?」(1枚目の写真)。「よこせ」。「残念だ、時間がない。ビタミンCを買わなきゃ〔母に頼まれた〕」。「いいか、夕飯なんか食えると思うな」。ダンネが近づいてきたので、レオは走って逃げる(2枚目の写真)。ダンネも、レオを全力で追う。レオは、つまづいて転んでしまい、上からダンネがのしかかる。そして、ナイフを取り出すとレオの頬に当てる(3枚目の写真)。「待って、お金がある」。「タトゥーされたくなかったら、50よこせ」〔2000年の為替相場で約600円〕。レオは母から買い物用に渡された50クローネ札を出し、ダンネは、靴でレオの頭を踏みつけながら、財布に札を入れる(4枚目の写真、矢印)。そして、足で一発蹴ると、「また明日な、弱虫」と言って去って行く。
  
  
  
  

起き上がったレオは、「サラに手を出すな」と言う。「今、何て言った?」。レオは拳銃を取り出して、ダンネに向ける(1枚目の写真)。「俺が、怖がってるとでも?」。しかし、このブラフにレオがびくともしなかったので、ダンネは下手に出て、「降参だ。クールだ。感銘を受けたよ。見ても、いいか?」と、拳銃を奪おうと画策するが、レオは表情を全く変えない。「いつまで、こうやって立ってるんだ? お前は小生意気な野郎で、みんなが “ぐず” だと思ってる」。この作戦もダメ。拳銃は真っ直ぐダンネを狙っている。「お前と俺。何て組合せだ! “バンビ” が欲しいか? 欲しいなら、やるよ。段取りする。座っても いいか?」。拳銃は、座ったダンネに真っ直ぐ向けられる。「女の子なんて一杯いるから、簡単に手に入る。お前が誰を選んでも、何も言わせない。尊敬するよ、レオ。約束する」。これだけ言っても、レオは黙ったまま。拳銃は、びくとも動かない。「俺は、どうすりゃいいんだ?」。ようやくレオが口を開く。「その1。自転車は、自分で磨け」。「もちろん、そうする」。「その2。サラに構うな」。「お前に、やると言ったろ」。「くり返せ。これからは…」。「もう、いいだろ?」。問答無用でレオは続ける。「これからは…」。ダンネ:「これからは…」。「ダンネ・ヨハンセンは…」。ダンネ:「ダンネ・ヨハンセンは…」。「構わないと、約束します。サラ・エル・ラシッドに」。ダンネ:「構わないと、約束します。サラ・エル…」。「エル・ラシッド!」。ダンネ:「サラ・エル・ラシッドに、構いません」。「僕は、鼻もちならない嫌な奴ですから」。ダンネ:「僕は、鼻もちならない嫌な奴ですから」。「さあ、その3だ。10秒やる。命乞いしろ」(2枚目の写真)。「やめろ、レオ。こんなの、バカげてる」。「ひざまずけ。5秒しかないぞ!」。「レオ、くそ、やめてくれ。お願いだ!」。「3年も我慢したんだ。ダンネ」。「レオ、やめるよ。約束する!」。「もし、君が誰かを好きなら、本気になれ。中途半端じゃダメだ〔アリの言葉と同じ〕。「何、言ってんだ? 神様、レオ様。懇願してる。撃たないで、どうか、お願いだ」(3枚目の写真)。こう言うと、ダンネは泣き始める。レオは、拳銃を下げ、“行ってよし” と首で合図する。ダンネは、そのまま泣きながら歩いて行く。
  
  
  

それまでずっと緊張していたレオは、思わず、うつぶせになって吐いてしまう。その音で振り返ったダンネは、こてんぱんにやっつけてやろうと、「この、くそったれの、はったり屋!」と叫んで、近づいて行く(1枚目の写真)。それを見たレオは、拳銃を拾うと、「この、下司野郎、思い知れ!」と近寄って来るダンネに、再度銃を向け、「止まれ!」と命じる。「俺は、ブチ切れたぞ!!」。「ダンネ、本気だぞ!」。「撃てるもんなら、撃ってみろ!」。そして、発射音が響く。ダンネは、胸を撃たれてその場に倒れ込む。拳銃を構えたままのレオも凍り付いたようになっている(2枚目の写真)。ダンネを殺したと思ったレオは走って逃げ始める。しかし、母に頼まれた買い物をしないと疑われると思ったので、もう一度ダンネのところまで戻ると、ダンネの体を横に向け、お尻のポケットから財布を取り出す(3枚目の写真、矢印)〔写真の右下に出血で染まったシャツ〕。レオは、財布ごと持って走り去る(4枚目の写真)。
  
  
  
  

場面は変わり、レオのアパート。父がシャンパンを持って玄関から入って来る。父は、今日のラジオでインタビューを受けたと嬉しそうに語る(1枚目の写真)。そして、「誰も失業しない。サンダー氏が、解雇を撤回した。大型トラック2000台の注文で」と語る。婦警の母は、夫に抱きついて喜ぶ。それを受けて、母はレオに、シャンパンに相応しいお祝いキッチン・テーブルの用意を頼み、終わったところで、レオと弟が父に抱きつく〔レオの顔は、“殺人” を犯した直後だけに曇っている〕。レオが、父の首を入れ過ぎて抱いたので、「止めろ、レオ。止めるんだ。ケガするじゃないか」と叱られる。母は、「レオは、あなたに見せたかっただけよ」と庇う(2枚目の写真)〔弟は、約束通り、バットマンのマスクをもらっている〕。テーブルの上には、キャンドルとシャンパン・グラスが置いてある。父は、シャンパンの栓をひねって開け、ナプキンなしなので、中身が吹きこぼれる。シャンパンを注いだのは、もちろん両親だけで、子供2人はシャンパン・グラスにジュース。飲み終えたあと、弟は、「レオが、全部買ってきて、片づけもした。掃除機もかけたし、トイレもきれいにしたんだ」と言い、母は 「シーツを替える 手伝いもね」と付け加える。父は、「よく 全部できたな? 学校に行かなかったのか?」とレオに訊くが、レオは、それには答えず、「フィリップに、プレゼントも買ってやった。似合うでしょ?」と言う。「お前らしくないな。何か、欲しいのか? それとも、窓でも壊したか?」。この2つ目の言葉にレオはヒヤリとする。父は、さらに、「ダンネが手を出した?」とキワドイ質問。「そのうち 何とかするから」。「だが、どこか変だぞ」。母:「本当なの、レオ? 学校には頭にくるわ。なぜ、やり返さないの?」。父:「ダンネが、怖がると思うか? それこそ、奴の、思うつぼだ」〔レオには、辛い会話だ〕。電話がかかってくると、いたたまれなくなったレオはすぐに席を立ち 電話に出る。それは、警察から母にだった。そこで、母を呼ぶ。電話を替わった母は、ダンネの事件を聞かされ(3枚目の写真)、「2分で出る。現場で」と言うと、部屋まで拳銃を取りに行く。
  
  
  

翌朝、レオが学校に行くと、門のところでサラに会う。サラは、いきなり手を出し、「私の、ブローチ」と、要求する。レオは、「何のこと?」と しらばくれる(1枚目の写真)。「昨日、カバンから盗ったでしょ?」。「どんな、ブローチ?」。「カバンに入ってたの」。「嘘は付いてない」。サラは、犯人はレオしかいないのに、嘘を押し通され、見限って離れて行く。サラが、正門の扉を開けるのに追い付いたレオは、「もう、聞いた?」と話しかける。「ダンネが死んだ。昨日、撃たれたんだ」。サラは、泣き声で 「嘘付き」と非難する。「これで、少しは良くなるね」。サラは、レオの頬を引っ叩く。教室には、教師と警官がいて、教師が話し始める。「皆さんには、事態を、正しく伝えようと思います。辛い話に、なるでしょう。今朝、ダンネのお母さんと話しました。心臓から2センチの所を撃たれたそうです」(2枚目の写真)。この間、レオは、ずっと俯(うつむ)いている。「唯一、希望があるとすれば、彼の状態は危機的ですが。意識が戻るかもしれません」。“殺した” とばかり思っていたレオは、驚いて顔を上げる(2枚目の写真)。教師の隣にいた警官は、「全員に、短時間の事情聴取をします」と告げる。
  
  
  

次のシーンは、それからしばらくしての場面。ジェニファーの堅信式のドレス選びに連れて行くため、アリが、学校の前でサラと話している。「姉さんのためだ。行かないと、お冠りだぞ」。すると、サラがカバンからプレゼントのようなものを取り出し、「パパによ」と言う(1枚目の写真)。「パパに? どうして?」。「何も、聞いてないわ」。「お前からじゃないのか? いつ、受け取った? どんな人物だ?」。「休み時間に、おばあさんから。パパみたいに、浅黒い人よ」。アリは、「その包みが、爆発物でもあるかのように扱い、サラを車に行かせると、包みをそっと持ったままゴミ入れのドラム缶の中に入れる〔これが爆発物なら、無責任な行為〕。タクシーに戻って来た父に、サラは、「すぐに 開封することが重要なんだって。さもないと、何か 悪いことが起きるそうよ」と言う〔その日の朝、アリは、娘2人に、「1つ、約束して欲しいんだ。見知らぬ人間からは、何も受け取らないこと」と言い、2人は、「約束する。心配性のパパに」と応じた。それにもかかわらずサラが受け取ったのは、この “脅し” があったからであろう〕。そこに、ジェニファーがやってくるが、アリは、ジェニファーにも車に乗るよう命じる。そして、リボンをナイフで切断し、包装紙をナイフで開き、慎重に手を入れ、中からVHSのビデオカセットを取り出す(2枚目の写真、矢印)。中には、小さな小箱も入っていて、その中には、指輪〔アリが中東から逃げて来た時、残して来た妻、死んだと思っていた妻の結婚指輪〕と、切断された薬指〔もちろん、妻の〕が入っていた。昨日、老女が、「大尉、あなたの 奥さんと子供の命が、かかってるのよ」と言ったのが、スウェーデン人の家族ではなく、中東に残して来た妻のことだと知り、アリは茫然とする〔この時点で、アリは自分にアラブ人の子供がいるとは まだ知らない〕
  
  

聴聞室の前で呼び出しを待つレオ(1枚目の写真)。名前を呼ばれたレオは、中に入って行く。中にいたのは、顔見知りの警官と、より上級の平服の男性(2枚目の写真)。質問は、最初、平服の男性がする。「名前と、クラスを言いなさい」。「レオ・フレデリクソン、7年A組」。「昨日のことから始めよう。午後、ダンネに会った? 自転車置場で、見なかったか?」(3枚目の写真)。「僕が自転車に乗った時、彼は友達と一緒でした。何を話してたかは知りません。それから、僕は買い物に行きました。レジ係りは お婆さんでした。もし必要なら、これがリストです。ママが書きました」。ここで、質問者が 警官に替わる。「レオ、いいか? 君は、ダンネと、更衣室で喧嘩したそうだが、原因は何だね?」。「僕です。告白します」。平服の男性:「何を、告白するんだい?」。「悪いのは僕です。僕は、女の子たちを、からかってました… 彼が止めに入るまで。彼は、意地悪だけど正しかった」〔自分に容疑を向けさせないための嘘?〕。これで、レオは開放される。レオが、ドアを開けようとすると、平服の男性が、「君はアニカの子だね? 私たちは一緒に捜査してる。彼女はいい警官だ」と言う。そこで、レオは、「犯人は、どうなるんです?」と訊いてみる。「終身刑だな。最低でも」。その言葉にレオは慄く(4枚目の写真)。ドアから出ると、そこにいたのはサラ。部屋に入って行こうとするサラに、レオは、「さっき、言ったこと謝るよ。僕って、時々バカ言うから」と声をかける。サラは、「あなた… 私が好きなの?」と訊く。レオが黙っていると、「言いなさいよ」と要求する。レオが仕方なく頷くと、「いいこと、私、あなたが好きじゃない。グズだから」と ズバズバ言う〔何て、生意気な中東難民の子だろう〕
  
  
  
  

レオが、二重に絶望して廊下を歩いていると、レオを探していた母にパトカーまで連れて行かれる(1枚目の写真)。ドアを閉じると、母は、「ダンネは、もうダメかもしれないわ」と言う。「そう?」。「どう思ってる?」。「分からない」。「授業後に、彼を見た?」。「自転車置き場にいたよ。誰か、逮捕したの?」と、気のない返事。母は、自分の拳銃、レオがダンネを撃った拳銃を取り出し、「彼は、これと同じ9ミリ銃で撃たれたの」と言い、弾倉を外し、「この銃には、フル装填すると8発入る。数えてみましょうか?」と言うと、弾を出して数え始める。そして手のひらに載せた8つの弾の中から1つを取り出し、「何が変だか分かる?」と訊く。「これは 不発弾なの。お尻を見れば、形が違うでしょ。他のと比べると」(2枚目の写真、矢印は撃針痕)「不発弾は、全部、箱に入れてあったの」〔母は、拳銃の8発の銃弾の1つが不発弾になっていたので、すべてはレオの犯行だと確信している〕「彼、多分 死ぬわ。私たち、これから どうしたらいい?」。レオは、「サッカーの練習嫌いだから、家にいさせて」と不真面目なことを言ったので、母に頬を叩かれる。母は、さらに、レオの上にのしかかると、拳骨で何度も背中を殴る(3枚目の写真)。そして、母親自らが息子を殺人罪で告発しなければならない悲しさに、レオを抱きしめる。
  
  
  

母が体を離して運転席に戻ると、レオの弟を連れた父が窓ガラスをトントンと叩き、母がウィンドウを下げる。その隙に、レオはドアを開け、逃げ出す(1枚目の写真)。母もすぐに追いかけるが、差は縮まらない。レオの行く手を貯水池が阻む。振り向いたレオに、母は 「ぶったこと、ごめんなさい。家に帰りましょ」と言うが、レオは 「やなこった!」と言い、池に飛び込んで泳ぎ始める(2枚目の写真)。母は、「戻りなさい! 助けになるわ!」と叫ぶが、レオが泳ぎ続けるので、自分も池に飛び込んで後を追う。レオは自由形、母は平泳ぎなので、差が付き、レオが対岸に這い上がった時には、かなりの差がついていた。レオは、そのまま走り去る。
  
  
  

ここで、映画の中で唯一の矛盾箇所がある。アリは、授業の途中で、2人をタクシーに乗せ、アラブの悪魔老婆から渡された包みの中から ビデオと指輪と切断された指を見つけた。当然、3人は堅信式のためのドレス選びに行ったハズなのに、その直後の聴聞室のシーンでは最後にサラが生意気なことを言った。てっきりドレス選びから帰ってきたと思っていたら、次のシーンは、モールのドレス選びになっている。どうなっているのだろう? アリは、ビデオの内容が早く知りたいので、サラに、姉のドレス選びに協力するよう強く命じ、食料品を見て来ると嘘を付き、スーパー部門に置いてあるTVからビデオを勝手に取り出し、送り付けられたビデオを再生する。すると、中東に残してきた妻が映る。指が切断されたので、手には包帯がぐるぐる巻きにされている。そして、「今日は、アリ。随分、久しぶりね」と言う(1枚目の写真)。「あなたが、遠い国で暮らしてるって、聞かされた。元気でいるって。とても嬉しいわ。あなたが逃げてから、悪いことだらけだった。仲間が、大勢処刑された。村の人は、ほとんど死んでしまった。あなたが、私を探そうとしたこと、知ってるわ。私が、死んだと思ったことも。でも、指輪は決して離さなかった。あなたが、残してくれたものが、もう1つある」。そして、1人の青年が妻の隣に座る。「ファリードよ。別れ別れになって6ヶ月後に生まれたの。とても いい子よ。父さんに、何か言いいたいことある?」。ここで、スーパーの店員が来て、勝手なビデオ視聴を止めさせる。アリが、そこから立ち去ると、すぐ近くに、アラブの悪魔老婆が、黒メガネの子供と一緒に待ち受けていた。「孫のヨゼフ。全盲なの」。ヨゼフは 「今日は、大尉さん」と言う。アリは、ビデオカセットを見せて、「何の、つもりだ?!」と、老婆に詰め寄る。「ある晩、この子の両親ほか29人が爆死した… トラックから発射されたロケットで」。「指を切断したな!」。「広告を覚えてる? トラックは、この国で作られてる。買い手の注文で、トラックには改造が… それでも、トラックを作ってる」。「要求は、何だ?」。「ロケットは、東欧から密輸されてる〔ワルシャワ条約機構加盟国の意味の「東欧」なら1990年以前になる。しかし、母のパトカーはボルボS70。1996-2000年の車種。従って、単に、東部欧州くらいの意味〕。「答えろ、このババア!!」。「それでも、トラックは完全に合法的に輸出され、私たちの政権側の手に渡っている。社長なら、それを止められる。でも、彼は無視した… いくら、大量殺人に使われるかを訴えても」。「誰だ?」。悪魔老婆は、積み重ねられた新聞の下のポスターにある、「サンダー、雇用を確保」という大見出しを示す。「サンダーは、明日、ジュネーヴで契約に署名する。2000台の発射台、あるいは、“トラック” と称するものに〔レオの父が解雇されないための2000台の大型トラック〕サンダーが飛行機に乗る前に暗殺なさい」(2枚目の写真)。
  
  

アリが家に戻ると、妻は、まず学校で起きたニュースを話す。「子供が、撃たれた… ジェニー〔ジェニファー〕と、同じクラスなのよ」。それだけ言うと、後は、ドレス選びの話に移る。それが一段落した時、アリは、重大な秘密を打ち明ける。「俺の国の奴らから、接触があった。俺に、使命を負わせる気だ」。妻は、「広報?」などと勘違いし、「素敵じゃない? 積極的に関与できるなんて、幸せよ。あなたの生まれ故郷でしょ? テレビでも、連日、惨状が伝えられてる。あなたは、必要とされたのよ」と言う。それに対し、アリは、「殺人が使命だ」と打ち明けるが、妻は 「バカげてる」と一蹴(1枚目の写真)。「何かの、聞き間違いじゃない?」と本気にしようとしない。その夜、考え事があり過ぎて眠れないアリの耳に、ドアをノックする音が聞こえる。アリがドアを開けると、そこにいたのは、行き場を失ったレオだった(2枚目の写真)。アリは、「家まで送ってくぞ。その前に、ご両親に電話しないとな」と レオに告げる(3枚目の写真)。
  
  
  

レオは、「5分だけ、待って」と言う。そして、以前、アリが最後に言った忠告を、涙を流しながら短く引用する。「もし、君が誰かを好きなら、証明する行動に出るんだ」(1枚目の写真)。その言葉が分からないアリは、「もう、5分は終わったのか?」と訊く。返事がないので、「電話してくる」と、キッチンを出て行こうとする。レオは、「僕なんだ。僕が、やった」と打ち明ける。「何を?」。「ダンネ…」と言うと、泣きながら アリに抱きつく。そして、「電話しないって約束して」と頼む。ところが、アリは、「約束できない」と言う(2枚目の写真)。そして、「ダンネのママとパパは、どう思ってるかな?」とも。レオは泣き続ける。そして、最後に、「隠れてるよ」と言う。「うまくいかないぞ。1週間もどうする? 1年は? 隠れてたって、いつかは逮捕される」と言い、もう一度抱き締める。そして、その夜は電話せずに、レオをソファに寝かせる。アリが、ソファに横になったレオを見つめていると、レオは、もう一つのアリの言葉を前後逆に一部引用する。「本気になれ。もし、君が誰かを好きなら」(3枚目の写真)「そうじゃなかった?」。「どこかで聞いた言葉だな」。「おじさんが言ったんだ」。アリには、暗殺命令だけでなく、既に実行された殺人の示唆の責任までかかってくる。
  
  
  

すると、そこに電話が掛かってくる。アリがすぐに電話を取ると、中東に残してきた妻の声が聞こえる。「今日は、アリ。ハナンよ」。「今日は、大丈夫か?」。ハナンは、テロリストが見せる紙を読み上げる(1枚目の写真)。「あなたの息子と私は、あなたに すがるしかないの。選択肢は2つしかなく、最終期限は明日の正午よ。アリ、今すぐ、返事が必要なの。さよならを言っておくわ。楽しい日々を、ありがとう」。しばらくして、相手は息子に替わる。「ファリードだよ。こんな形で話すなんて、残念だ。妹たちのことは、聞いたよ。ジェニーとサラ、それが名前だね?」。「今日は、ファリード。そうだ。それが名前だ」。「大丈夫だって、言ってくれないよね?」。「ファリード、やってみせる。安心しろ」(2枚目の写真)。その、“暗殺実行” の言葉と同時に電話は切れる。
  
  

アリが スウェーデン語を話していなかったので、レオは、「おじさんの国から? まだ、戦争中?」と尋ねる。アリは頷く。「でも、人を殺すのは、好きな人を助けるためでしょ?」(1枚目の写真)。その微妙な問い掛けに、アリは、「眠るんだ」とだけ言い、キッチン・テーブルに行き、電話を待ち受ける(2枚目の写真)。すると、すぐに悪魔老婆から電話が入る。「大尉。やるのね?」。「ああ」。
  
  

明け方になり、レオは目を覚ますと(1枚目の写真)、サラの部屋に忍び込む。「好きじゃない。グズだから」と、ひどい言葉を浴びせられたにもかかわらず、レオはサラの髪にそっと触ると(2枚目の写真)、サラへの思慕を諦めた証(あかし)に、テントウムシのブローチを目覚まし時計の上に置く(3枚目の写真、矢印)。そして、次は、盗んだダンネの財布を返そうと、アリの家を出て行く。
  
  
  

アリは、翌朝早起きすると、風呂で体を洗い、物置き代わりの部屋の中から、長年使っていなかった礼拝用のマットを探し出し、居間に行き、朝の礼拝を始める。2階の寝室から降りて来た妻は、それを見て、「何してるの?」と声をかける(1枚目の写真)。しかし、アリは礼拝中なので、身動き一つしない。「これも、ルールの1つなの? 答えないことが?」。アリは体を起こし、祈りの言葉を囁き続ける。祈りが終わると、「美しいわ、あなたの祈る姿」と言ったあと、「話して」と促す。「深夜に電話が掛かってきて、急に、お祈りを始めたわよね」。アリは、ようやく重い口を開く。「この連中は、俺に、殺人をさせようとしてる。やりたくないから、祈ってるんだ」。「殺人を犯すの? やらないと、向こうでは誰が死ぬの?」。「監禁中の2人だ。君の知らない人だ」。「でも、あなたは知ってる」。「何の違いがある。どうせ死ぬんだ」。そして、「俺の妹だ」と付け加える〔さすがに、“妻” とは言えない〕。「妹なんて、いたの? 一度も話さなかったわね?」。「やめろよ」。「もう1人は、誰?」。「くどいぞ!」。「秘密なの? 誰かぐらい言えないの?」。「妹の息子だ」〔自分の “息子” とも言えない〕。「で、夫は どこにいるの?」。「死んだ」。「アリ、あなた、正直に話してる?」〔アリは頷かない〕。「君には分かるまい、俺の、この想いが… 正しく話せないというだけで、一家全員が殺される世界が」(2枚目の写真)。妻は怒り出す。「前に聞いたわ! 誤魔化さないでよ! 明日は堅信式なのよ! お客も、やることも一杯! あなた何者なの、アリ!?」。アリは、ある朝、ミスで爆弾が時間前に爆発し、スクール・バスの子供達が悲鳴を上げながら焼け死に、それを見て、自分が無我夢中で逃げ出したと打ち明ける。そして、妻の許しを乞う。
  
  

一方、レオは、ダンネの家がどこにあるか知らないので、郵便受けの名前を一軒ずつ確かめている。すると、「手をあげろ、お猿さん!」と声が掛かる(1枚目の写真)。新聞配達のアルバイトをしているテレースだ。「君、変わってるね?」。「迷子になったの?」。「届け物が あるんだ」。「何なの?」。レオは、それには答えず、「ダンネの家 知ってる?」と訊く。テレースは、「このバッグ 持ってよ」と、新聞紙の一杯入った大きな袋を渡す。それからは、レオに持たせたバッグから、テレースが新聞を取っては、郵便受けに入れて行く。テレースは、映画が好きなので、好きな台詞を引用してみせる。「女を扱うには、びんた一発で十分だ」。「それ 何だい?」。「ハンフリー・ボガードの『シエラ・マドレの黄金』」。「楽しそうだね。他にも知ってる?」。「ポケットの中は拳銃、それとも 私に気があるの?」。「メイ・ウェストの『わたしは別よ』」。「どこで覚えたの?」(2枚目の写真)。「ローレン・バコールって知ってる?」。「君のママ?」。「用がある時は口笛を吹きな。鳴らし方は知ってるよな? 唇を合わせて、ただ吹けばいい。ローレンとボガードは恋人だった。あんたとサラみたいに」。レオは首を横に振る。「でも、好きなんでしょ?」。レオは、それには答えず、「『ターミネーター2』は?」と訊く。「いつか会おうぜ、ベイビー」。そして、「着いたわ、ダンネの家よ」(3枚目の写真)。
  
  
  

すると、レオは新聞紙の入ったバッグをテレースに返すと、ポケットからダンネの財布を取り出し、郵便受けに投げ込むと、そのまま逃げるように走り出す。数十メートル走って振り返ると、また戻ってくる。というのは、テレースが、財布を取り出して見ていたからだ。レオは、テレースの手から財布をひったくると(1枚目の写真、矢印)、また郵便受けに入れようとするが、テレースは、「これダンネの? なぜ持ってるの?」と訊く。「余計な お世話だ」。「こんなトコに入れたら、盗まれちゃうわ」。それを聞いたダンネは、思い切って玄関まで走って行くと、財布をドアの前に置き、チャイムを鳴らすと(2枚目の写真、矢印は財布)、全速で戻り、テレースの腕をつかんで、道路の反対側に駐車している車の陰に隠れる。「ご立派。少しはマシね」。しかし、誰も出て来ない。そこで、レオは、もう一度玄関まで行き、財布を取り戻して引き返そうとすると、買い物から帰ってきた中年の女性が門の所にいる〔玄関に向かって走って行く時、すぐ近くにいたハズの女性に気付かなかったのだろうか?〕。そして、「あなた、誰?」「ダンネに会いに来たの?」「何の用なの?」と、時間を5秒おいて3つ質問されるが、いずれにもレオは黙っている。女性〔ダンネの母〕が諦めてレオの横を通って玄関の前まで行くと、レオは、「待って」と呼び止める。そして、振り向いた母親に財布を渡す(3枚目の写真、矢印)。それが、息子の財布だと分かると、「一晩中、一緒にいたわ」と言い、レオのうなだれた顔を見て、「息子に意地悪されたのね?」と訊く(4枚目の写真)。レオは何の反応も示さなかったが、「あの子が、弱い者虐めをしてことは知ってるわ」と付け加える。それを聞いたレオは、悲しそうな顔をしたまま黙って後退し、向きを変えて走り去る。
  
  
  
  

一方、アリは、家の近くの指定場所で悪魔老婆と会う。「彼は、今日の午後、ジュネーヴに発つ」(1枚目の写真)「その前に、 病院にいる父親を訪問する。それが、決まった習慣。父親が脳卒中だから。サンダーの来院は、いつも11時45分」。「それだと、堅信式の真っ最中だ」。老婆は完全に無視。「5号室。2発」。そして、さらに、「堅信式の教会の前で、この車が待ってる。余裕は15分。あなたの家族の処刑は12時ちょうど」(2枚目の写真)「後、2時間ね。質問は?」。家に戻ったアリが、渡されたバッグを開くと、中には、病院内の見取り図、医師の白衣、カツラ〔アリは、額の上が禿げている〕、拳銃などが入っている。
  
  

レオとテレースはバス停の前にいる。テレースが買った2個のアイス・バーを1つもらったレオは、「アイス、ありがとう」と言うが、とても食べる気にはなれない。「食べないの?」。頷いて返す。「今から、どこ行くの?」。「ママのトコ。仕事で待ってる」(1枚目の写真)〔息子を逮捕する〕。「月曜に会える?」。「それはどうかな」。「じゃあ、火曜は?」。バスが来て、レオは首を横に振り、バスに乗り込む。「いつか 一緒に映画に行けるといいな。今、決めなくていいのよ」。「何を見るの?」。「いつか会おうぜ、ベイビー」。バスのドアが閉まりかけると、テレースが無理矢理乗り込み、レオに抱きつく。レオも、それに応えて抱擁する(2枚目の写真)。テレースがバスから降りると、バスは動き出すが、テレースは、バスを追いかけ、笑顔で見送る〔生意気なサラより、テレースの方が、余程素敵だ〕
  
  
  

アリは、長女の堅信式が行われる教会から、妻の反対を押し切って無理矢理出て行く。次のシーンでは、病院の前で、バッグを持って 悪魔老婆の車から降りたアリが病院の中に入って行く。老婆は、孫を車の中に待たせ、すぐに病院に向かう。次のシーンでは、アリは、もう医師の白衣に着替えている。カツラを被り、口髭を付け、メガメをかけているので別人に見える。そして、まっすぐ5号室に向かう。中に入ると、車椅子に乗ったサンダーの老父がいたので、医者らしく話しかける。すると、トイレにいたサンダーが花束と一緒に出て来る。アリは、サイレンサー付の拳銃を取り出す用意をする。すると、ベランダから用心棒が出て来て、名前を訊き、無線で確認しようとするが、あまりにも無礼なのでサンダーが止めさせる。アリは、老父を聴診器で “診察” したあと〔神経科専門医と自称し、患者は脳卒中なのに、聴診器は可笑しい〕。「外で、お話しできますか?」と言い、ベランダにサンダーを連れて行く。そして、父親の容体が悪化する兆候があるのでと、でたらめを言い、サンダーに付き添っているようアドバイスする。「1時間で、飛行機が出るのですよ」と言うが、「お父上には、あまり時間がありません。あなたは離れない方が」と、用心棒がいるので、暗殺せずに済むよう説得を試みる(1枚目の写真)。そして、サンダーを残して部屋を出て行く。サンダーは、用心棒にコーヒーを持って来るよう命じる。アリが部屋から出て来ると、掃除婦に化けていた悪魔老婆が、「終わったの?」と訊く。アリは、拳銃をゴミ掃除の箱の中に捨てると(2枚目の写真、矢印)、「この、ど素人が! ボディガードがいるぞ!」と文句を言う。「じゃあ、最近ね」。「無理だ。電話して、そう伝えろ」。しかし、老婆は、抗議など無視。「まだ、9分残ってる」と言い、用心棒が部屋から出て行くのを見て、「あいつの邪魔をして来る。あと8分よ。何て 報告するかは、あなた次第」と告げ、掃除用具を拳銃ごと持ち去る。アリは仕方なく病室に戻り、拳銃がないので、医療用の手袋をはめ〔指紋を残さないため〕、サンダーが花を入れた金属製の花瓶でサンダーの顔を殴りつける。サンダーが床に倒れると、テーブルライトのコードを器具から引きちぎり、サンダーをバルコニーに投げ出すと、首にコードを巻き付け窒息死させようとするが、どうしても殺すことができない。代わりに、「これは警告だ。契約は中止しろ。さもないと、次は殺すぞ。親父の命もだ」と脅し、了承させる。その時、老婆が車に残して来たヨゼフがクラクションを何度も鳴らし、「おばあちゃん!」と叫んだので、老婆が走って行き、それを見た用心棒は、買ったばかりの自販機のコーヒーを投げ出し、病室に駆け戻る。そして、病室から出てきたアリが用心棒を見て逃げ出したのを見て、サンダーが心配なので まず病室へ行く。車の中では、老婆がヨゼフを叱りつける。そこに、アリが戻って来る。
  
  
  

アリは、「終わったと電話しろ」と要求する。「成功した?」。アリは いきなり助手席にいたヨゼフをつかんで後部座席に引きずり込み、首に腕を入れる。老婆:「放さないと、殺すわよ!」。アリは、ヨゼフの首をつかみ、いつでも絞殺できる状態にし、「電話しろ」と命じる(1枚目の写真)。老婆は仕方なく電話を掛け、「パーティでは、みんな大喜びだったわ」と、予め取り決めた成功時の合図を送る(2枚目の写真)。アリは、それでは正しいか分からないので、すぐに携帯を奪い取ると、「俺たちも嬉しいぜ。2人にとっちゃ、もっと嬉しいだろうよ」という声が聞こえたので、安心する。
  
  

すると、拳銃を手にした用心棒の姿が見えたので、アリは、ヨゼフごと後部座席に伏せる。何事かと老婆が前を向くと、正面から用心棒が近づいてくるのが見える(1枚目の写真、矢印)。アリは、ヨゼフを座席の下に入れる。用心棒は、老婆に向かって、「エンジンを、止めろ!」と命令する。アリは、斜めに停まっている車の後部ドアを、正面から見えないよう少しだけ開け、そこから外に出て、体を車に密着させる(2枚目の写真)。そして、そこから、車の後部に回り込む。用心棒は、拳銃を真っ直ぐ車に向け、何度もエンジンの停止を命じる。遠くからは、用心棒が呼んだパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。すると、車からさほど遠くない場所に、路線バスが停車するのが見える。アリは白衣を脱ぎ捨て、老婆が男に向かって車を発進させた瞬間、バスに向かって走り出す(3枚目の写真)。向かってくる車には、自分の命が危ないので 用心棒は撃たないが、車が通り過ぎた後、狙いを定めて何発も撃つ〔タイヤに当る〕
  
  
  

アリは、発車し始めたバスの車体を叩いて何とか停まってもらい、中に乗り込む。そして、最後尾の席に座る。すると、乗客がみんな窓の外を見始めたので、窓際まで行って見てみると、老婆の車が塀に激突し、ベルトをしていなかった老婆が窓から外に飛び出て死んでいるのが見える(1枚目の写真)〔孫は、イスの下の隙間にいたので無事〕。バスは3台のパトカーとすれ違う。アリは、こっそりと眼鏡を外し、口髭を取る。ふと気付くと、それを、前方の席に座っているレオが、じっと見つめている(2枚目の写真)。アリが体を起こすと、レオがやってきて、すぐ隣に座る。2人は、顔を見合わせるが、何を考えたのだろう?(3枚目の写真) 片や、殺人罪を自首しに母の元に行くレオ、片や、殺人を犯さずに中東の妻子を救ったアリだ(傷害罪、脅迫罪は適用されるかも)。
  
  
  

中東では、監禁されていた2人は解放され、ドアから建物の外に出て行く。ジュネーヴに行った “死の商人” サンダーは、契約書にサインする(1枚目の写真)。この契約とは関係なく、以前、サンダーが売ったミサイル発射装置付きのトラックが、反乱軍の拠点の村に向かって進む(2枚目の写真)。トラックが停止し、兵士がミサイルを装着し、5発が村に向かって飛んでいく(3枚目の写真)。解放されたばかりの親子は、拘束していた兵士ともども吹き飛ばされる。
  
  
  

アパートに戻ったレオは、きちんとした服に着替えさせられ、母が髪を整える(1枚目の写真)。そのあと、一瞬映る校庭のシーンで、胸に包帯を巻いたダンネが座っている(2枚目の写真)〔これは、どう見ても、レオがダンネを撃ってから3日後か4日後。そんなに早く退院できたのだろうか?〕。次のシーンは、警察署。正面玄関の階段の上には、学校の聴聞室にいた平服の男性がいる。階段の下には、レオと母、少し離れて父と弟がいる。レオは1人で階段を上り始め、上の男性が手を差し出す(3枚目の写真)。レオはその手をつかみ、中に入って行く。スウェーデンの法律では15歳未満の若年未成年者に対しては、重罪でない場合、起訴されない場合すらあると書いてあった。①レオが3年にわたってダンネの虐めに遭い続け、②発砲は、命の危険にさらされたための偶発的なもので、③ダンネが数日で退院できたほどの軽傷なら、それほど罪は重くないのかもしれない。
  
  
  

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